失われた川端通り入り口の「トリヨンフ」

Frco.Don

2012年03月07日 00:12

先週の土曜日。

雨模様の中、川端通りの南側の入り口に差し掛かると、そこにあるはずの、喫茶店「トリヨンフ」がなくなり、更地になっていました。ここの所、なぜだかわかりませんが、気になって「トリヨンフ」で食事をしたいと思い、そんなことを食卓でも話題にしていたと所から、ボクは驚きました。

ボクは、ボクの心のうちにも更地ができた気がして何度も「トリヨンフ」の跡地に目をやり、やはり更地になっていることを確かめました。

あの店の二階は、屋根裏部屋然としていて、そこには、中学生にして「女」「司馬遼太郎」「カメラ」「星新一」、そして「井上陽水」「吉田拓郎」をボクに教えてくれた、親友が一人で住んでいました。彼の両親が何処にいるのかもボクは知りませんでした。彼は、あの屋根裏部屋に、ただ一人、住んでいるのでした。

ボクから、彼へと発信していたものといえば、まだ無名でいた頃の「植村直己」「やまがたすみこ」などでした。

彼は、たまには、「トリヨンフ」の厨房に入ることがありました。
カウンターに陣取るボクとの話に夢中になって、注文のスパゲッティーを真っ黒コゲにしてしまったりもしていました。

もう高校生になっていた時のことかと思うのですが、ある夜遅く「トリヨンフ」を訪ねて行くと、社会人か女子大生だろうと思う年格好の、初めて見る女性が一人でカウンターを陣取り、コーヒーを入れている、親友と話していることがありました。フロアーにはお客さんが2、3人いて、あの頃流行っていた、インベーダーゲームの音が、BGMに混じって店の中には響いていたような気がします。

ボクは、遠慮がちに、彼女から一番遠いカウンターの隅に腰掛けました。
彼女は、ときおりノースリーブのワンピースの腕を延ばしては、腰まである長い髪にふれながら、ボクが来た事など、おかまいなしに、親友へ話かけていました。

二人が、何を話していたものか、憶えていようはずもありませんが、ひとしきり話した彼女が店を後にすると、「あの女、大人っぽかろが、バッテン、年下ぜ」と親友はボクに教えてくれるのでした。

ボクは、ウブであることを恥じる思いで一杯になり、何も答えることができませんでした。

そんな彼は、お互い成人してすぐの頃。ボクが博多を離れ関東で暮らしていた、わずかな間に死んでしまったのでした。

一度でも入ったことがある人ならば、わかるのですが、「トリヨンフ」は20年、30年前で時間が止まっている気にさせられる店でした。ボクにとっては、二十歳そこそこで死んでしまった親友と過ごした時間のよどみが漂う場、とでも例えられる店でした。





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